バリアフリーはほとんどの方がご存知かと思いますが、同じように身体が不自由な人がモノやサービスを利用しやすくするためにユニバーサルデザインという概念が存在します。
今回はそのバリアフリーとユニバーサルデザインの違いについてまとめてみました。
バリアフリーデザインとは?
バリアフリーデザインの定義
バリアフリーデザインとは障害者や高齢者等が普段生活する上での障壁(バリア)を取り除く事、障害者や高齢者等が過ごしやすい様に配慮する事を言います。
バリアフリーで言う「バリア」は段差等の物理的なバリアだけでなく、制度的なバリア、文化・情報面でのバリア、意識上のバリアがあると言われています。
バリアフリーデザインの例
例えば
- 車椅子利用者のために段差をなくす
- 車椅子利用者のために階段がある所にスロープを増設する
- 高齢者、体が不自由な人のために手すりをつける
- 目が不自由な人のために点字ブロックを敷く
- 耳の不自由な人のために、放送された情報を電光掲示板などで文字情報で流す
こういったものはバリアフリーの概念に基づいた対応であると言えます。
ユニバーサルデザインとは?
ユニバーサルデザインの定義
ユニバーサルデザインとはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等に関わらず、多様な人々が使いやすいモノやサービスを設計することを言います。
バリアフリーが障壁(バリア)を取り除くと言う意味なのに対してユニバーサルデザインはあらかじめ障壁(バリア)のない設計にしておくと言う、アプローチの仕方に違いがあります。
ユニバーサルデザインの例
例えば
- タッチだけで操作できるスマートフォン
- 自動ドア
- 取り出し口の大きい自動販売機
- ドラム式洗濯機
- 多目的トイレ
これらのユニバーサルデザインの概念を基に出来上がったプロダクトは障害者や高齢者などの体が不自由な人以外にも利用しやすい利便性の高いものになっているのが特徴です。
ノーマライゼーションとは?
バリアフリーデザインとユニバーサルデザインはノーマライゼーションという概念をもとに生まれました。
このノーマライゼーションとはすべての人が同じ人間として普通(ノーマル)に生活を送る機会が与えられるべきだという考え方です。
1950年代に、障害者を特別扱いして一般社会から切り離す方向に進みがちであったのに対して、障害のある人も一般社会で平等で普通に生活できるようにとデンマークの障害者運動の中で提唱されてきました。
日本でも1970年代から注目され始め、日本語では「等生化」と訳される場合もあります。
つまりこのノーマライゼーションの考え方を実現するために、バリアフリーデザインやユニバーサルデザインという概念が生まれたのです。
バリアフリーデザインとユニバーサルデザインの歴史、法律
1974年(昭和49年)に国際障害者生活環境専門家会議が「バリアフリーデザイン」と言う報告書を出したころから「バリアフリー」と言う言葉が使われる様になりました。
もともとは建設用語として「バリアフリー」という言葉が登場し、建物内の段差の解消などの物理的障壁の除去という意味合いが強かったようです。
ユニバーサルデザインは1980年代の初め、自身も障害を持った工業デザイナーのアメリカ、ノースカロライナ州立大学教授であったロナルド・メイスン氏が提唱しました。
そして日本では1996年(平成6年)ハートビル法が施行されました。
ハートビル法とは?
正式には、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律。
この法律は、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる建築物の建築の促進のための措置を講ずることにより建築物の質の向上を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
ー ハートビル法 第一条 ー
つまり駅や百貨店、店ホテルなどといった不特定多数が出入りする公共的な建物について、高齢者や身体障害者などの対応を建築物の保持者に義務付けるものです。
しかし、政令で定める延べ床面積2,000平方メートル以上の、高齢者や身体障害者が円滑に利用できるようにすることが特に必要な特定建築物は適合義務が課せられるのに対し、その他の政令で定める特定施設は努力義務となっていました。
このハートビル法は2006年12月20日、バリアフリー新法の施行に伴い廃止されます。
交通バリアフリー法
正式名は高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律。
-
この法律は、高齢者、身体障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性が増大していることにかんがみ、公共交通機関の旅客施設及び車両等の構造及び設備を改善するための措置、旅客施設を中心とした一定の地区における道路、駅前広場、通路その他の施設の整備を推進するための措置その他の措置を講ずることにより、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
ー 交通バリアフリー法 第一条 ー
つまり公共交通事業者に対し、鉄道駅等の旅客施設の新設・大改良、車両の新規導入の際、この法律に基づいて定められるバリアフリー基準への適合を義務付けるものです。
例えばエレベーター、エスカレーター等の設置、誘導警告ブロックの敷設等。
しかし、既存の旅客施設・車両については努力義務としています。
この交通バリアフリー法もまた2006年12月20日、バリアフリー新法の施行に伴い廃止されます。
バリアフリー新法
正式名は高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律。
この法律は、高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性にかんが み、公共交通機関の旅客施設及び車両等、道路、路外駐車場、公園施設並びに建築物の構造及び設備を改善するための措置、一定の地区における旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路を構成する道路、駅前広場、通路その他の施設の一体的な整備を推進するための措置その他の措置を講ずることにより、高齢者 、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進 に資することを目的とする。
ー バリアフリー新法 第一条 ー
バリアフリー新法はハートビル法と交通バリアフリー法を統合しアップデート、新たに福祉タクシー、路外駐車場、都市公園もバリアフリーの対象に追加されました。
そして対象者についても「高齢者と身体障害者等」と定めていたものが身体障害者以外でも知的・精神・発達障害者も対象とし、また「障害者等」の「等」には妊産婦、けが人などが含まれるとしています。
これまでバリアフリーについての法律をみてきましたが、ユニバーサルデザインは?というと、ユニバーサルデザインに関する法律はありません。
心のバリアフリー、心のユニバーサルデザイン
「心のバリアフリー」「心のユニバーサルデザイン」とは、偏見や固定観念など私たちの心の中に潜む目に見えない壁をなくし、年齢・性別・障害・国籍の違いに関わらず、誰もが住みやすい社会を実現するためのテーマです。
高齢者や障害者等が自立した社会生活を送るためには施設整備はもちろん必要ですが、全ての施設から段差をなくしたり、全てのサービスを様々な障害を持つ人々に対応したりする事は難しく、限界があります。
しかし、何か困っている人を見かけたら「どうしましたか?お手伝いしましょうか?」などの声をかけて「人」の手が加われば段差などの障壁も乗り越えていくことができるのです。
また、近年外国人旅行者が増加傾向にあり、2020年に東京でオリンピックが開催されるなど、高齢者や障害者、外国籍の方々にどう対応するかということはますます重要になってきています。
全ての人種に対応できるスキルを身につけるのは難しいので、まずは誰かの視点に立ち行動する「相手を思いやる心」を持つことが必要なのだと思います。
まとめ
バリアフリーデザインとユニバーサルデザインの違いをお分り頂けたでしょうか?
バリアフリーデザインは障壁(バリア)をなくす、ユニバーサルデザインは誰もが利用しやすい設計(デザイン)をする。
バリアフリーデザインがある一定の人々の対応なのに対して、ユニバーサルデザインは全ての人々が対象になっています。
またバリアフリーにはそれに関する法律があるように行政が主導になって行うケースが多いのに対し、ユニバーサルデザインは誰にでもメリットが多いために民間の企業なども積極的に取り入れるケースが多くあります。
バリアフリーとユニバーサルデザインはどちらのアプローチも必要です。
そして年齢、性別、障害、国籍の違いに関わらず、誰もが住みやすい社会を実現させるためには、バリアフリーデザインやユニバーサルデザイン、ノーマライゼーションの理念をしっかりと理解しておくことが重要です。